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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)10016号 判決

原告 佐野三男 外二名

被告 東洋金属株式会社 外一名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告東洋金属株式会社は原告らに対し、別紙目録記載の物件につき、東京法務局板橋出張所昭和五一年一〇月一五日受付第四七五八〇号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  被告東京金属商事株式会社は原告らに対し、前項の物件につき東京法務局板橋出張所昭和五〇年二月一七日受付第六一三三号をもつてなした所有権保存登記及び同出張所昭和五〇年二月一四日付の表示登記の各抹消登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

二  被告ら

主文と同旨の判決。

第二当事者の事実主張

(請求原因)

一  別紙目録記載の一棟の建物の表示記載の建物(以下「本件建物」という)は被告東京金属商事株式会社(以下「被告東京金属商事」という)が建築した通称「池袋第二ヒルハイム」という分譲マンシヨンで、その中に区分所有権の対象となる七三戸を包含するものであるが、原告ら七四名は同被告会社から分譲を受け、または同被告会社から分譲を受けた第三者から譲受けた右七三戸の区分所有者の大部分で、いずれも本件建物の区分所有者である。

二  被告東洋金属株式会社(以下「被告東洋金属」という)は、本件建物の一階部分に所在する別紙目録記載の駐車場(以下「本件駐車場」という)につき、東京法務局板橋出張所昭和五〇年二月一七日受付第六一三三号をもつて所有権保存登記及び同出張所昭和五〇年二月一四日付の表示登記をなした被告東京金属商事から、登記原因を昭和五一年九月一日代物弁済として、同出張所昭和五一年一〇月一五日受付第四七五八〇号をもつて所有権移転登記を受けた本件駐車場の登記簿上の所有者である。

三  しかしながら、本件駐車場は次のとおり、構造上の独立性及び利用上の独立性を有せず、区分所有権の目的となし得ないから、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という)三条一項にいう「構造上区分所有者全員の共用に供されるべき建物の部分」に該当する本件建物の法定共用部分である。

(一) 本件建物の外観はその型体が凹型になつていて、二階以上に区分所有権の対象となる七三戸を包含し、一階の中央寄りに本件建物全体を管理する法定共用部分である管理事務室、電機室、エレベーター室、階段が設置されていて、その東側、西側は本件建物の二階以上を支える柱、二階床スラブ及びコンクリート床によつて囲周された吹抜けの空間部分いわゆる「ピロテイ」になつている。

本件駐車場は、右東側、西側の各ピロテイのうち、西側ピロテイに所在するのであるが、電機室、エレベーター室、階段と接する部分に隔壁があるのみで、本件建物の法定共用部分である通路と接する部分はもとより、他の部分にも隔壁、扉、シヤツターなどの設備は一切なく吹抜けで外に向いて開放されており、構造上全く独立していない。

(二) ところで、一般に「ピロテイ」部分は構造上区分所有者全員の共用に供されるべき建物の部分、すなわち法定共用部分に該るとされているが、本件マンシヨンの東側、西側各ピロテイが法定共用部分に該ることは、本件駐車場の所在する西側ピロテイと同様の構造を有する東側ピロテイが本件マンシヨンの法定共用部分とされていることからも明らかである。

したがつて、本件駐車場の所在する西側ピロテイは東側ピロテイと同様本件建物の法定共用部分であるといわなければならない。

(三) 右のとおり、本件駐車場は構造上の独立性を有しないばかりか、以下のとおり利用上の独立性もない。

1 本件駐車場内には、本件建物全体を支える柱が存在し、その天井に沿つて中空には法定共用部分たる水道給水管、排便管、雑用排水管などの各基本部分が張り廻らされ、その点検、補修のために常時監視できるようになつている。

2 西側ピロテイである本件駐車場と東側ピロテイとの間には受電設備ならびに本件建物全体を制御するメインスイツチが設置されていて、その出入口が本件駐車場内にあり、また法定共用部分である電気メーター、スイツチ、マンホールも本件駐車場内にあつて、これらの設備の点検、補修のためには本件駐車場内を通行しなければならない。

四  以上のとおり、本件駐車場は本件建物の法定共用部分であつて区分所有権の目的にはならないから、本件駐車場に対する被告東京金属商事の前記二記載の所有権保存登記及び表示登記はいずれも無効な登記であるといわなければならない。

したがつて、被告東京金属商事から本件駐車場の区分所有権を代物弁済により取得して前記二記載の登記をなした被告東洋金属の所有権移転登記もまた無効な登記である。

よつて、原告らは被告らに対し、請求の趣旨記載の各登記の抹消登記手続を求める。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因一の事実中、被告東京金属商事から分譲を受けた第三者から譲受けた者については右譲受けの事実は不知、その余の事実は認める。なお、本件建物は本件駐車場を含めた七四区画の専有部分より成り立つている。

二  同二の事実は認める。

三  同三の事実中、本件駐車場が原告ら主張の位置関係にあること(ただし、本件駐車場のある部分をピロテイと称するのは適切でない)、本件駐車場の天井に給排水管が設置されていること、本件駐車場内に電機室のドア、電気メーター、スイツチが設置されていることはいずれも認めるが、その余の事実は争う。

四  同四の事実は争う。

(被告の主張)

一  本件駐車場は、本件建物の一区画として被告東京金属商事が建築所有したものであつて、被告東洋金属は昭和五一年九月一日、代物弁済により本件建物の敷地所有権一万分の六五五の共有持分権と共にこれを取得したものである。

二  本件駐車場は、区分所有権の対象たりうるものである。

すなわち、

(一) 本件駐車場は、玄関ホール、階段室等建物中央の法定共用部分と接する東側部分は隔壁をもつて明確に区分されており、他の三方は建物の外周を画する本件建物の柱、天井によりその境界は明瞭である。吹抜けであることは、車輛の出入りを予想した構造として当然のことである。したがつて、本件駐車場は一棟の建物の中で構造上区分された部分に該当し、構造上の独立性を有する。

(二) 本件駐車場は、現に九台の車輛を収容する駐車場として利用されているが、右利用にあたつては、当初より利用希望者は個別に駐車場所有者と利用契約を結び、毎月一定額の利用料を支払うこととされていたものであり、本件駐車場は利用上の独立性をも有している。

なるほど、本件駐車場内には、一部天井に沿つて給排水管が設置されているが、右は二階の給排水管が天井配管されているものであつて、二階以上の階の天井に直上階の給排水管が設置されているのと何ら変りなく、ただ、それらと違つて本件駐車場においては美観上の問題がないため露出のままになつているにすぎず、給排水管の点検、補修の必要性は他の階の場合と同じである。また、電機室のドア、電気メーター、スイツチについては、本件駐車場内に設置されるべき必然性はなく、いつでも容易に他へ移設することが可能である。

したがつて、これらの設置があることによつて、本件駐車場の利用上の独立性は害されない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  本件建物は、被告東京金属商事が建築した通称「池袋第二ヒルハイム」という分譲マンシヨンであること、被告東洋金属は、本件建物の一階部分に所在する本件駐車場につき、東京法務局板橋出張所昭和五〇年二月一七日受付第六一三三号をもつて所有権保存登記及び同出張所昭和五〇年二月一四日付の表示登記をなした被告東京金属商事から、登記原因を昭和五一年九月一日代物弁済として、同出張所昭和五一年一〇月一五日受付第四七五八〇号をもつて所有権移転登記を受けた本件駐車場の登記簿上の所有者であること、本件建物の外観は、その型体が凹型になつており、二階以上に区分所有権の対象となる七三戸を包含し、一階の中央寄りに本件建物全体を管理する法定共用部分である管理事務室、機械室、電気室、エレベーター室、階段が設置されていて、その東側、西側は本件建物の二階以上を支える柱、二階床スラブ及びコンクリート床によつて周囲された吹抜けの空間部分となつているが、本件駐車場は、西側の空間部分に所在すること、以上の各事実については当事者間に争いがない。

そして、成立に争いない乙第一号証、証人田口甲子三の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件建物は、昭和四八年に着工し、昭和五〇年三月頃までに完成したが、本件駐車場を除き七三区画の専有部分を有し、原告の選定者らは、昭和四九年一二月以降昭和五二年までの間に、それぞれ被告東京金属商事から本件建物の各専有部分と敷地に対する共有持分権との分譲を直接受けたか、または分譲を受けた第三者から更に譲渡を受けた者であり、七三区画の区分所有者の大部分にあたり、他方、被告東洋金属は昭和五一年九月一日、被告東京金属商事から代物弁済により本件駐車場と本件建物の敷地に対する共有持分権一万分の六五五とを譲受けたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  ところで、原告らは、本件駐車場は、構造上の独立性がなく、また利用上の独立性もないから、法三条一項にいわゆる法定共用部分にあたり、区分所有権の目的とならず、したがつて、被告らの前記各登記は無効であると主張する。法三条一項の解釈それ自体としては、当裁判所も、原告ら主張のように、構造上の独立性がないといえるかどうか、また利用上の独立性がないといえるかどうかを中心に考えるべきものと解するので、以下、これらの点について検討を加えることとする。

三  まず、本件駐車場が構造上の独立性を有しないか否かについて判断する。

成立につき争いない甲第一ないし第三号証、第一〇号証の一ないし三四、第一一、第一二号証及び証人田口甲子三の証言を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件建物は、鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一〇階建であり、床面積は、一階が三六四・七七平方メートル、二階ないし八階が各四六〇・一〇平方メートル、九階、一〇階が各三四九・〇八平方メートルで、二階ないし八階には各九戸、九階、一〇階には各五戸合計七三戸の区分所有権の目的となる区画を有し、一階部分には本件駐車場のほか管理事務室、エレベーター室、電機室及びホールなどがある。

2  一階の平面図は別紙図面のとおりであり、本件駐車場は赤線をもつて囲む部分に該当する。

3  本件駐車場の東側の約三分の二の部分には壁があり、右壁を隔てて階段室、エレベーター室及び電機室と接し、残余部分はホールへの通路及び戸外に通じ、北側、南側及び西側の三方は、西側の一部の外壁があるほかはほとんど直接戸外へ通じるが、別紙図面に黒塗りの四角をもつて示すとおり、それぞれの角地には本件建物の脚柱が存し、これと前記東側の隔壁及び西側の外壁によつてその範囲は明瞭である(脚柱などのないホールへの通路との境については、本件駐車場の床面はコンクリート打ちのままになつているのに対し、通路部分の床面には化粧タイルが貼りつけられており、その境は明瞭である)。

以上のとおりであり、本件駐車場は、全体としてその範囲が明瞭に識別できる状況にあり、右事実に弁論の全趣旨から明らかなごとく本件駐車場が自動車の保管及びその出し入れ等の用に供するためのものであることを合わせ考慮すれば、本件駐車場が構造上の独立性を有しないとは到底いいがたい。この点について、原告らは、本件駐車場が、東側の隔壁を除き、その余の部分に隔壁、扉、シヤツターなどの設備がなく、外部に開放されていることを理由に、独立性がない旨主張するが、隔壁等を設けるか否かは、それぞれの用途ないし利用目的に即して決定すべき事柄であり、その範囲が全体として明瞭に識別できる状況にある以上、区分所有の目的たるに何らの妨げとなるものではないというべきである。したがつて、この点についての原告らの主張は採用できない。

四  次に、本件駐車場の利用上の独立性を有しないか否かについて判断する。

1  前掲甲第二号証、第一〇号証の一ないし三四、証人田口甲子三の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件駐車場の最大収容能力は自動車九台であるが、駐車場利用者は、本件駐車場から他の専有部分を経ることなく直接外部へ通行することができ、他方、本件建物の居住者は本件駐車場を通ることなく直接外部から出入りすることができる状況にあり、現にこのように利用されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  また、右各証拠によれば、本件駐車場の東側隔壁には、電気メーター三個、スイツチ、電機室出入用のドア及び電気室からの排気用の電気扇が設置されており、天井及び東側隔壁の一部に沿つて二階用の給排水管が露出のまま設置され、コンクリート床の一部には排水用のマンホール一個が設置されていること、しかしながら、電気メーター、スイツチ及び電気扇については、いずれも電気設備上は末端的なものであり、本件駐車場内に設置されるべき必然性はなく、駐車場外へ移設することにそれほどの困難を伴わないこと、また、電機室のドアについては、電機室の反対側にもドアがあり、駐車場側のドアを常時利用する必要性が認められないこと、さらに、給排水管は、二階の水廻り部分用の給排水管であり、二階以上の天井に直上階の給排水管が設置されているのと何ら異なることがないことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右のごとき給排水管及びマンホールは常時点検、修理を要するものではなく、定期的にあるいは必要に応じてなせば足りるものであることはその性質上明らかである。

3  他方、成立につき争いない甲第三ないし第六号証、第七号証の一、二及び第八号証によれば、被告東京金属が、本件建物の入居希望者を勧誘するため作成配付したと認められる価格有効期限を昭和四九年五月末日、広告有効期限を同年一一月末日とする広告用パンフレツトには、駐車場につき、「一二台収用(賃貸)、所有者被告東京金属商事」と記載してあつたこと、また、同様の趣旨による広告有効期限を昭和五〇年一〇月末日とする広告用パンフレツトには、住居部分、共用部分についてそれぞれ記載があるが、駐車場については共用部分の記載に含めず、別個に、「収容台数六台、月額一台当り一五、〇〇〇円」と記載してあつたこと、そして、被告東京金属は、昭和四八年一二月一九日、原告佐野に対し、本件建物についての物件説明書を交付したが、右説明書によれば、宅地建物取引業法三五条に定める重要事項のほか、特に留意事項として、不動文字で、「駐車場所有者である被告東京金属および当該駐車場の賃借人は一階共用部分の一部および共有敷地の一部を無償にて車輛による通行をすることができる」旨記載してあつたこと、さらに、原告佐野は、昭和四八年一二月一九日、被告東京金属商事との間に本件建物のうち九〇四号室につき売買契約を締結し、同時に、同被告に対し、同被告が昭和四八年一一月一日制定の管理規約を承認する旨約し、同被告との間に管理委託契約を締結したが、その際取交された売買契約書および管理規約書には不動文字で前項と同旨の記載があつたことがいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、売買契約等における本件駐車場の権利関係についての取扱いは、原告佐野以外の被分譲者らについても全く同様であつたことは容易に推認しうるところである。以上を要するに、原告の選定者らは、いずれも、本件建物の区分所有権を取得するに際して、本件駐車場が共用部分に含まれないことを了解していたものであり、したがつて、本件駐車場をもつて、共用部分として不可欠のものとして分譲を受けたものでないことが明らかである。

以上の各事実に、本件駐車場の収容能力が九台であり、本件建物居住世帯数七三戸に比して極めて規模が小さく、本件駐車場は区分所有者にとつて有用ではあるが、不可欠のものとはいいがたいことを合わせ考えると、本件駐車場は利用上の独立性を有しないということはできないといわなければならない。したがつて、この点についても原告らの主張は採用できない。

五  よつて、原告らの請求は理由がないから、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石垣君雄)

物件目録

一 壱棟の建物の表示

豊島区池袋本町三丁目壱九参弐番地弐所在

鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根壱〇階建

壱階 参六四・七七平方メートル

弐階 四六〇・壱〇平方メートル

参階 四六〇・壱〇平方メートル

四階 四六〇・壱〇平方メートル

五階 四六〇・壱〇平方メートル

六階 四六〇・壱〇平方メートル

七階 四六〇・壱〇平方メートル

八階 四六〇・壱〇平方メートル

九階 参四九・〇八平方メートル

壱〇階 参四九・〇八平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号

池袋本町三丁目壱九参弐番弐の四八

鉄骨鉄筋コンクリート造壱階建駐車場

壱階部分 弐六壱・〇四平方メートル

1階平面図〈省略〉

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